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コラム「経営品質のすすめ」

第4回 顧客の理解と信頼作りから競争優位を作り出す

1.お客様の要望や期待に対応するための自社の「立ち位置」

 顧客満足度(CS)向上という言葉は今日、ごく普通に使われています。「お客様の満足度を向上させることが当社の課題だ」、「当社は顧客視点での経営を目差す」というような表現はすでに使い古されています。皆さんの会社でも顧客満足度の向上は重要なスローガンなのではないでしょうか?

 ここで質問をさせていただきます。

 貴方の会社では、「顧客満足を向上させることとは具体的に何をすることなのか」、皆の理解が共有されていますか。あるいは、「具体的にどのようなことをすれば顧客満足度を向上させられるのか」を皆がきちんと説明できますか。

 「経営品質の進め」も今回で第4回になりました。第4回では経営品質の最大のテーマである「顧客の理解と対応」にフォーカスを当てて解説をいたします。経営品質では「お客様を理解し対応する」ことが会社の経営活動の原点だと位置付けています。また、他社にない独自の付加価値を創り出し、他者を差別化をするためには、「お客様を理解し対応する」ことを徹底することが重要だとの考え方を取っています。


 「お客様を理解し、対応する」とは一体どのような意味なのでしょうか。お客様の視点でモノを見るとはどのようなことなのでしょうか。

 「CS(顧客満足度)経営」というと、「お客様の言うことを何でも聞くこと」とか、反対に「お客様の言うなりにするので経営方針が混乱するんだ」とおっしゃる経営者が時々います。ですが、どちらも完全に誤りです。「お客様を理解し対応する」ためには、「自社の立ち位置」を明確にしなくてはなりません。この意味は、「多様なお客様の期待や要求の中から、対応するものとそうでないものとを区別する基準を決める」ことです。どんなニーズに対応するのかという「立ち位置」を明確にしていないために、「言われるものには全て対応すること」などという誤った認識が生まれるのです。CS経営という言葉は使い古された感がありますが、貴方の会社はお客様の要望に対してどう対応すべきか、という「立ち位置」を明確にしていらっしゃるでしょうか。

2.「お客様を理解し対応する」ことの重要さ

 顧客満足度を向上させることが重要であることは判っていても、それがどのような仕組みで会社の売上の拡大やシェアの拡大につながって行くのか説明できますか。

 「お客様を理解する」とは、日常のお客様とのお付合いの中でお客様が発したご意見や要望・クレームに対応することだけではなく、日常のお客様とのお付合いの中でお客様の発言の裏に含まれた真の要望や期待を探り出すことです。つまりお客様が直面している「困った」を、お客様の立場に立って思いやり、把握することなのです。

 今日のような変化の激しい環境においては、お客様もたくさんの問題や課題を抱えているはずです。こうしたお客様の立場に立って「言葉には出さないけれど実は解決したい問題」を探り当てること。そして「困った」を解決するための解決策を提案し実施すること、これが「対応する」ことの意味です。

 お客様の「困った」を解決することができれば、お客様からは感謝されますし貴社の評価も向上します。このような努力を続けることにより、お客様との信頼関係は強まり、相談は増え、注文の回数や取引額も増えることになります。このように、お客様の満足度の向上は貴方の会社の業績向上にとって大きな効果をもたらすことになるのです。

 しかしながら、ここで重要なことがあります。それは「お客様を理解し対応する」ことは、現場の一担当者(営業担当者)だけではできないということです。会社全体で取組むべきミッションであり、組織的活動で対応しなければできるものではありません。「現場の努力が不足しているからお客様の満足が向上しないのだ」と思っていらっしゃるとしたら、とんでもない勘違いをされています。

3.お客様を理解して信頼を作るとはどのようなことか

 お客様との信頼関係というものを強化するために、どのようなことをしていますか。お客様が貴社に対して他社よりも大きな信頼を寄せるためには、貴社が何をすれば良いか、お判りですか。

 この答えは、貴社がお客様の立場に立つことで考えて見てください。何をすれば「頼りになる会社だ」と評価されるのか。例えば、寄せられたクレームに対しての、現場でのその場しのぎ的な対応だけではお客様は満足してくれると思えません。では、関連する他部署をも巻き込んで全社的な対応をすることをお客様に伝えるようにした場合はどうでしょうか。お客様は自分の意見に対して「全社を挙げて対応してくれる」会社という印象を持つに違いありません。

 しかし、中には対応するだけでは「頼りになる」とは思わないお客様がいるかも知れません。例えば、「自社の事情を良く判っていて、絶妙なタイミングで提案をしてくれたり、「気付き」につながる提言をしてくれる」会社、このような会社に絶大な信頼を置くお客様かもしれません。

 お客様との信頼関係は一朝一夕にできるものではなく、とても長い時間がかかります。もちろん、お客様の「困った」を理解して、それに密着した対応が必要なことは言うまでもありませんが、その前提になるのは、お客様が、貴社のどのような活動に信頼を感じるのかを貴社が予め掴んでおくことです。こうして対応を行うことでお客様との信頼関係を強固なものにすることが大切なのです。

4. 自己満足は大敵

 お客様が貴社を選択してくれる理由を、勝手な思い込みではなく的確に把握していますか。それは、どんな方法で確かめたものですか。
 お客様との信頼関係が深まれば注文は増え取引額も増えることになります。例えばリピート契約が取れたり、新しいお客様を紹介されたりする訳です。
 では、お客様は貴社のどのような点を評価してリピート注文をくれたり、口コミ紹介をしてくれたりするのでしょうか。自分が行った一生懸命な対応が評価されたと思い込みがちですが、ちょっとお待ち下さい。本当にそうであることを確かめましたか。

 例えば、あなたが良い商品を大変な努力をして仕入れ提供できたことを、お客に認められたとしましょう。貴方は「仕入の成功」を評価されたと考えても、実際には「貴方のひたむきな誠実さ」を評価して契約を決めてくれたのかも知れません。あるいは「要求達成へのスピード」を評価したのかも知れません。
 自分が思っている評価ポイントとお客様の真の評価ポイントは異なる可能性があります。従って「思い込んで」はなりません。お客様に、何らかの手段で直接聞いたり、第三者を通じて聞き出してもらったりして自分の思い(仮説)が正しいかどうかを必ず検証することが大切です。

 お客様の評価につながらない活動をいくらやっても意味がないので、この視点は大変重要なことです。
 これと似ていますが、「何故、売れているか」、「何故、成功したか」を明確にするために、成功の要因を徹底的に考えることが非常に大切です。結果オーライの「理由なき成功」では成功したとは言えません。何をすれば成功するのか、その要因が掴めていないからです。
 逆に、目標に達しない場合(失敗)であっても「何ができて、何ができなかったのか」をきちんと分析して特定できれば、次から同じ失敗をすることはなくなります。これが「学習する」ことの真の意味です。

 いかがでしょうか。お客様を理解して対応することの意味と重要性をご理解いただけましたか。簡単で当たり前のことですが、強い『信念』で自分の思考プロセスを変えないとなかなかこうは考えられません。

 次回は「 価値を生み出すためのリーダーシップ」にフォーカスを当てて解説します。「経営トップや組織のリーダーが発揮すべきリーダーシップ」を顧客視点で考えた場合、何が重要なのかを考えます。